2013年 05月 22日
ちゃんと着替えて床に就いたものの、0時過ぎ、盛大な嬌声に目が覚めてしまいました。 隣室が喫煙ルームで、そこに集まった方々が大騒ぎしていて…まったく困ったものです。 そういえばホテルのレストランに団体さんが来てたなぁと思い出し、ひたすら嵐の過ぎ去るのを待ちます。 幸いにも30分くらいで撤収してくれましたが、どうしてくれるんだ俺の睡眠時間はとぼやきたくなりました。 金曜の夜、しかも旅先で、だれだって開放的になる気分はわかりますが… というわけで、冴えない朝を迎えました。 おまけに外は雨。 ボソボソと朝食をとり、チェックアウト時間近くまで二度寝。 少し頭がすっきりしたところで、傘をさして出発。 * ノルトハイム(Nordheim)には、訪ねてみたいワイナリーがありました。 ルトロフ醸造所(Weingut Rudloff)です。 今回の出張の前に、私の仕事上のパートナーに日程を紹介した際、ノルトハイムに泊まるならあの醸造所へ行くべきですと勧められたのがルトロフでした。 ― 厚みのある飲み口ですが、ただ力強いだけでなく、透明感もあって日本人好みだと思います。 ― それは面白い。必ず行くことにします。 真面目にそんな会話を交わしたあと、彼の顔がふとほころびました。 ― おまけに、ルトロフさんの奥さんがとてもチャーミングな方でしてね。行ってみればわかりますよ。 しかしティスティングルームに入っても、人の気配がしません。 「ハロー」と奥に向かって何度か呼びかけるうちに、足音が聞こえ、ジーパンを履き、カーディガンをはおった女性が現れました。 グーテン・タークと挨拶をし名を名乗り「フラウ(「ミセスもしくはミスの意)・ルトロフでいらっしゃいますか?」と訊ねたところ、のっけから「『フラウ』はいらないわ。イルザって呼んでくださいね」とにこやかに挨拶返し。 若いモンならともかく、いいオトナを相手に初対面でファーストネームで呼ぶのはちょっと…と戸惑いましたが、この方ならすうっとイルザと呼べそうな気がしてくるから不思議です。 私は日本からあなたがたのワインを試飲するためにやってきましたと最後までいう前に「試飲ですよね?今グラス持って来ますから、どこでも座っててくださいね」といったん奥に下がります。 まさに、フレンドリーを絵に描いたような人でした。 しかも、ある意味なれなれしい物言いも、決して下卑た感じに聞こえないのが素敵です。 こじんまりしていますが、品良く調度品が並んでいます。 センスがいい醸造所ですよという、出発前にアドバイスをくれた方の言葉を思い出しました。 「はじめましょうか。まずはジルヴァーナーから?」 イルザさん、おもむろにボックスボイテルを取り出し、ワインをすっとグラスに注ぎ込みます。 01)2012 Silvaner Kabinett trocken 02)2012 Weisser Burgunder Kabinett trocken(Nordheimer Vögelein) 03)2012 Riesling Kabinett trocken(Sommeracher Katzenkopf) 04)2011 Silvaner Spätlese trocken 05)2012 Gewürztraminer Kabinett trocken(Nordheimer Vögelein) 04)以外は「Klassische Beere(クラシッシェ・べーレ)」に属するワイン。 これはこのワイナリーのブランド4つのうち、上から2番目のクラス。 ちなみに04)は「Edle Beere(エードレ・べーレ)」。トップクラスのワインです。 驚いたのは01)のジルヴァーナー。日本で聞いていた通りの厚みのある飲み口で、力感溢れるワインでした。が、重苦しくないのがすごいです。 03)量感たっぷりといった感じでしたが、野暮ったくありません。脱帽です。 04)は、01)が洗練されたような味わいで、トップクラスに位置づけられているのも納得です。 しかしながら、ここでの試飲のハイライトは05)でした。 薔薇の芳香が感じられ、ライチの風味が香り、しかもキリッと辛口に仕上がっていて、ボリュームはあるものの、もたれるような感じがありません。 このワインはすごいですね、と感嘆の声を挙げている私を見て、イルザさん誇らしげです。 どのワインもアルコール度数がこころもち高いものの、総じてバランスがいい。 これが「センスの良さ」というものかと、勉強させてもらったような気がしました。 私はあなたがたのワインを日本で味わったことがありますと申し上げたところ、 「そう?あたしたちにはわからないわ。だって仲介業者の人にワインを渡すだけですもの」 とカラカラと笑っています。 ご主人は今どちらへ?と訊ねたところ、だれもが知る大手の名を挙げ「○○醸造所で今日は仕事をしています」と答えるので、そちらが本業なのですか?じゃこちらのワイナリーは?とさらに質問すると、 「この醸造所は趣味でやってるんですよ」 今も「ホビー」という言葉が耳に残っているほど、この言葉は衝撃的でした。 高い評価を受けているこのワイナリーが「趣味」で営まれていたとは。 でも、それだからこそ、これほどのワインが造られているのだとも思いました。 * イルザさんに試飲のお礼を申し上げ、日本に帰ってからどのワインをどのくらい注文するかじっくり考えてご連絡しますねと約束し、醸造所をあとにしたのが12時少し前。 対岸のエッシェルンドルフ(Escherndorf)に向かうべく、フェリー乗り場の方向に歩き出します。 プレートには1721年製とありました。我が国では徳川吉宗が享保の改革を始めて5年、江戸に目安箱を設置した年、と、ブドウ畑に囲まれた村で、米将軍のことを考えてしまいました。 それはともかく、かなりの年代物であることは間違いありません。 こうしてモニュメントとして無造作に野外に置いておくというのも不思議な気がしますが、数限りなく残っているから、ひとつぐらい大丈夫なのかもしれません。 対岸のエッシェルンドルフに乗り物と人を渡すフェリー乗り場に到着します。 フェリーといっても載っている時間は2分程度、70セントの通行料です。100円もしません。 フランケンワイン好きなら「母なるマイン」と称したくなりますね。 さあ、エッシェルンドルフです。
by marienberg
| 2013-05-22 22:17
| ドイツ出張記
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